フロリダ(2):マイアミビーチのMiMoデザインとパステルカラーパレット

前回のフロリダのアール・デコ地区に引き続き、今回はフロリダ建築のマイアミモダン(Miami Modern)についてをご紹介します。アール・デコ建築のイメージが強いマイアミビーチですが、第2次世界大戦後のマイアミビーチの建築は世界的なモダンムーブメントに影響され、幾何学の遊び心を取り入れたフォルムがデザインされるようになりました。そのため、その頃の建物のデザインはMiMo(Miami Modern)と呼ばれています。

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MiMo(Miami Modern)マイアミモダン(1940年代後半ー1960年代中頃)

建築スタイルは引き続き水平のプロポーションがより強められ、フラットの屋根と大きく張り出した庇が多く見られるようになりました。バルコニーやプランターボックスのデザインにも水平が強調されたデザインが見られます。
また、アール・デコ期の特徴であった庇『アイブロー』は金属製の庇や、庇と窓枠が一つになったものへと変化し、太いラインやデザインを強調するため、外壁と対照的な素材や色で作られています。

幾何学模様の丸窓や向かって右側のポールはMiMo建築に見られるデザインの特徴のひとつ。

幾何学模様の丸窓や向かって右側のポールはMiMo建築に見られるデザインの特徴のひとつ。

ファサードデザインの中心軸については、アール・デコ建築では建物の中央であったのに対して、MiMo建築では中心軸が建物ではなくコートヤードの中央に移り、コートヤードを挟んで2つの対象的なデザインの建物が建てられる形が見られます。

また、戦後すぐのモダン建築はアール・デコ期の建築と同様に内部動線に沿って建てられ、アパートメントはエントランスを入ると内廊下と内階段が設けられていましたが、後期のMiMo建築で外部動線に組み込まれ、エントランスからは外階段と外廊下が設けられています。また外階段は建物の左右対称に設けられていることが多く、それはMiMoのデザインの重要な特徴の一つでもあります。

MiMo建築のディテールの特徴
Proscenium(プロセニウム):中庭を挟んだ二つの建物を繋いでいるバルコニーのような建物部分
Fun :MiMoのデザインは遊び心のあるデザインスタイルで、ラインや角度を楽しむ事で戦後の楽観的な方向性を具現化している。
Steel Pipes/ Columns:スチールパイプの柱を使うことで、新しいデザインとユーモアを示している。縦方向にストレートまたは斜めに延びるデザインが多く見られた。
Ironwork:MiMoデザインでは実に様々なアイアンワークが見られるが、ほとんどは建築家やオーナーによってカタログの中から選ばれてもの。アイアンレールはその家のキャラクターを決める要素とも言える。また、いくつかの建物については、レールがその建物の中で最も重要で保存されるべき要素の場合も見られる。
Decorative Block Walls:コンクリートで作られたブロックは手すり、壁、フェンスなど様々な部分に使われている。構造的には音や風が通り抜けるので、通称ブリーズブロックと呼ばれる。
Exterior Surface Materials:外壁はスタッコにコントラストのあるマテリアル(天然石やタイルなど)を組み合わせている事が多い。
Eaves(庇):MiMo建築はフラット屋根と共に、突き出た庇があることが多い。
Cortyard:ファサードの中心軸として二つの建物の間に設けられている。

バルコニーの一部の床円形にくり抜かれたデザイン。幾何学のデザインはMiMoの建築に見られる。

バルコニーの一部の床円形にくり抜かれたデザイン。幾何学のデザインはMiMoの建築に見られる。

MiMoの特徴である外階段、手すりにはアイアンワークが見られる。

MiMoの特徴である外階段、手すりにはアイアンワークが見られる。

 

バルコニーの幾何学模様のデコラティブ・ブロック(ブリーズブロック)。マイアミの気候に合わせて風通しを良くするために、模様部分をくり抜いてある。

 
MiMo Districtにあるコーヒーショップ。大きな庇と円形のフラットな屋根がMiMoの特徴。 こちらのコーヒショップのあるBiscayne BoulevardにはMiMo建築が多く見られる。

MiMo Districtにあるコーヒーショップ。大きな庇と円形のフラットな屋根がMiMoの特徴。
こちらのコーヒショップのあるBiscayne BoulevardにはMiMo建築が多く見られる。

デザインとカラーパレット
再び話題はアール・デコ建築に戻りますが、マイアミビーチのオーシャンドライブを訪れたことのある人であれば、立ち並ぶ建物を思い浮かべたときに「パステルカラー」がイメージされるのではないでしょうか。
このパステルカラーにまつわるストーリーを下記に短く紹介します。
マイアミのアール・デコ建築が建てられた当時は、建物の外壁の色は全てナチュラルな色でしたが、バーバラチャップマン(Barbara Capitman)とアール・デコ保存運動をしMBPLを立ち上げた、工業デザイナーのレオナルドホロウィッツ(Leonard Horowitz)によって塗り替えの動きが作られました。
ニューヨークで家具デザイナーをしていたレオナルドでしたが、同性愛者であることが原因で父親に勘当され、母親の住むマイアミのサウスビーチへとやって来ました。29歳でした。レオナルドはすぐにバーバラチャップマンと交友を深めて行きました。バーバラはレオナルドよりも30も年上でしたが、二人は「アール・デコ」という共通の心惹かれるものに意気投合したからです。レオナルドとバーバラはMBPLを立ち上げたのち、国家歴史指登録財への登録作業の資金を得るためにプレゼンテーションをした際、レオナルドはアール・デコ建築を目立たせるための「外壁のパステルカラーへの塗り替え」を提案し、20色のカラーパレットを作成したのです。これらの色はマイアミビーチの太陽、空、海、ビーチから引き出された色で作られています。

A palette of pastels created by Leonard Horowitz.

A palette of pastels created by Leonard Horowitz.

試験的にマイアミビーチのとあるベーカリーにてパステルカラーの外壁塗装が行われましたが、社会からは「大恐慌を思い出させるアール・デコ建築をなぜ目立たせるのか」や「まるで娼婦宿のようである」という厳しい意見が寄せられていました。しかしレオナルドは一軒ずつ説得をしながら、パステルカラーの外壁デザインを広めて行きました。

Friedman's Bakery circa 1982. Leonard Horowitz's のデザインはProgressive Architecture magazineの表紙を飾った。

Friedman's Bakery circa 1982. Leonard Horowitz's のデザインはProgressive Architecture magazineの表紙を飾った。

その後、1982年にProgressive Architecture magazineという雑誌にてパステルカラーのベーカリーが表紙に掲載されると、マイアミビーチのアール・デコ建築においてパステルカラーの外壁塗装は爆発的に広まりました。それはもうレオナルドは一軒ずつ訪ねて回ることはなく受け入れられて行ったのです。

雑誌に掲載された翌年にレオナルドはエイズにてこの世を去りました。42歳でした。

パステルカラーのアール・デコ建築が立ち並ぶ様子はマイアミ独自のアール・デコ、トロピカルデコをより一層際立たせ、アール・デコ建築に宿る大恐慌の暗い過去を現在の明るいマイアミビーチのイメージに変化させていますね。

フロリダ(1):マイアミのアール・デコ地区について

シカゴやニューヨークからの避寒地として人気のエリア、フロリダ州マイアミビーチ。ビーチ沿いのオーシャンドライブ通りを歩いていると、パステルカラーのカラフルな建物が立ち並んでいるのが目に飛びこんできます。マイアミビーチはビーチリゾートだけではなく、アール・デコ保存地区としても有名なエリアです。ここでは2017、2018年冬に訪れたアール・デコ建築ツアーに参加してきた内容を基に、マイアミ建築・デザインをご紹介していきます。

ビーチ沿いのオーシャンドライブ通りにはアール・デコ建築が立ち並び、多くの観光客で賑わっています。

ビーチ沿いのオーシャンドライブ通りにはアール・デコ建築が立ち並び、多くの観光客で賑わっています。

フロリダ州マイアミビーチの中でもサウスビーチと呼ばれるエリアにアール・デコ地区はあります。
このエリアには大西洋のビーチ・海岸沿い約8マイルに20以上の歴史保護地区が点在していますが、特にOcean Drive、6th street から Lincoln Laneに囲まれた1マイル(1.6キロメートル)四方のエリアはThe Miami Beach Architectural Districtとしてアメリカ国家歴史登録財(National Register of Historic Places (NRHP))に指定されています。( Old Miami Beach Historic DistrictやMiami Art Deco Districtの呼称でも親しまれています。)
このエリアには当初は1,000以上、現在は800のアール・デコ地区の建築があり、Miami Design Preservation League(以下MDPL) 非営利団体によって保護されています。

赤で囲まれた部分が国家歴史材登録エリア

赤で囲まれた部分が国家歴史材登録エリア

アール・デコセンター
MDPL アール・デコウェルカムセンターはオーシャンビーチ沿いにあります

MDPL アール・デコウェルカムセンターはオーシャンビーチ沿いにあります

MDPLはシカゴ生まれの女性活動家バーバラチャップマン(Barbara Capitman)と工業デザイナーのレオナルドホロウィッツ(Leonard Horowitz)によって1977年に設立されました。更に2年後の1979年、彼らの努力は実り、平方マイルのアールデコ地区が国家歴史登録財に登録され、街並みが保護されていくこととなりました。1980年頃にはチャップマンらがアンディーウォーホールの希望によりアール・デコ建築のツアーを提供したことから、マイアミアール・デコ地区はメディアの注目を集め始めました。アンディーウォーホールはアール・デコのコレクターとしても有名でした。

 

アールデコ地区には、時代の変遷とともに地中海リバイバル、アールデコ、マイアミモダン(MIMO)の3つの建築様式が見られます。時系列で開発や様式の流れを見ていきましょう。

マイアミビーチの開発と始まり
1914年にマイアミビーチとアメリカ本土を結ぶ橋が初めて開通し、多くの人々がマイアミビーチに訪れるようになりました。翌1915年にはマイアミビーチの創立しアメリカ北部に住む富裕層の避寒地・冬の別荘としていくつかの高級ホテル、ゴルフコースが作られ、さらにマイアミビーチの将来のビジョンが描かれました。1920−1925年には土地開発ブームによって56のホテルに4000室の客室が作られて急成長し、住宅は約850棟と約180のアパートメント、3つのゴルフコースと4つのポロフィールドが完成しました。

Mediterranean Revival  1910から1930年代
1920年代初頭、マイアミビーチでは開発者によってカリフォルニアにも当時多くみられた「ファンタジー」建築がもたらされます。 この建物スタイルは装飾的な柱、アーチ型の窓、アイアン手すりの装飾、タイルの屋根、スタッコの壁、絵のような中庭を守っているような鉄製のゲートを特徴とし、これらの建物はいくつかの異なる地中海スタイルの要素を組み合わせて「ファンタジー」な旧世界的解釈をしたものであると言えます。

ではなぜ地中海リバイバルが流行ったのでしょうか。フロリダやカリフォルニアにはスペイン植民地時代の歴史があり、その痕跡はそして多くの観光客にとって魅力的な要素の一つでした。そのため、建築家たちはスペインの特徴と地中海の別荘や海辺の宮殿の特徴を組み合わせて、アメリカ国内で独自のスタイルを作り出しました。そのため、「ファンタジー」な建築は多くの点でスペインリバイバルやミッションリバイバルのスタイルに非常に似ています。その後10年で、アメリカの他の地域でも地中海リバイバルの建築スタイルが受け入れられました。

マイアミビーチエリアではアール・デコツアーでも紹介された、かつてのヴェルサーチの別荘や、オーシャンドライブから西へ4ブロックほど入ったスパニッシュビレッジに立ち並ぶレストランでもこのスタイルを見ることができます。

上記はベルサーチの別荘だった建物

Art Deco 1920ー1940年
ーアール・デコ期(1920-1930年代)

アール・デコ(1920年代後半ー1930年初め)マイアミビーチの20世紀の近代建築はアールデコ様式で始まります。アール・デコの起源は1920年代半ばのヨーロッパ、フランスにあります。
 マイアミビーチでの前期のアール・デコの建物に見られる主な特徴は、ファサードが水平方向と垂直方向にそれぞれ3つの部分に長方形のように分けられていることです。また、ポーチとデッキが設けられているのがアール・デコの特徴です。建物は左右対称で、多くの建物には縦方向を強調するエレメントがあります。また、建物内部は廊下の両側に部屋がある中廊下型が特徴です。コンクリートでできた『アイブロー』と呼ばれる眉毛のような特徴的な窓上の庇は、南国の強い太陽の日差しを遮る役割をしています。前期アール・デコ建築は非常に遊び心がありながらも、しっかりとした左右対称のデザインが強く根付いています。

1925年パリの博覧会でのアール・デコの展示があり、マイアミのアール・デコデザインも影響を受ける
1926年にはフロリダは大ハリケーンによる多くの死者が出て、街は壊滅状態。その後に街の再建や開発がされた
1929年世界大恐慌がありマイアミへ移り住んだ富裕層の多くが全財産にを失った

Art Deco 1920ー1940年
 ーSTREAMLINE期(1930中頃ー1940年代初め)

 マイアミにはアール・デコデザインの第2フェーズ、ストリームライン期が訪れ、現在ではトロピカル・デコとも呼ばれています。マイアミのアール・デコ期の第2フェーズは世界大恐慌に始まり、第2次世界大戦の勃発によって終わりを迎えました。そのため、”Streamline Moderne(ストリームラインモダン)”のデザインの特徴は装飾的な要素は少なく、アメリカらしい機械の形状や工業デザインの形状に基づいています。
 ストリームライン期のアール・デコ建築の特徴は前期の『縦』を強調したデザインに対し、ファサード部分に『アイブロー(眉毛)』の庇をコーナーからファサードの側面の窓までぐるりと横切らせることで、より横方向のラインを意識してデザインされています。また、建物のコーナーを丸く、窓は以前の様式よりもファサードの側面部分に配置して、コーナーの構造がより自由で新しいシステムであることを強調しています。
 建物の中心軸は、アール・デコ前期はファサードの中央でしたが、ストリームライン期はファサードの中心軸をコーナー部、街の交差点に合わせたデザインが見られるようになります。また、そのコーナー部の縦に伸びるラインを屋上のサイン看板でさらに強調しています。そのようなデザインはまさにストリームライン期の特徴である『動き』と『スピード』を表しています。

ストリームラインのサブスタイルであるStripped Classic (装飾のほとんど取り除かれた古典主義デザイン)やModern Depression(モダンディプレッション)は、政府の建物によく使用されていました。

マイアミビーチの建築家たちはマイアミビーチをイメージするモチーフを使ってトロピカルデコと呼ばれる建物をデザインをしました。これらは植物をモチーフとした装飾や船をイメージしたデザインなどに見られ、南国のリゾート地としてのマイアミビーチのイメージをより強調しています。 マイアミビーチのアールデコのこれらの要素は、アールデコ様式を持つ他の地域の建物のデザインとは一線を画しています。

Beach Patrol Headquarters - マイアミビーチのパトロール本部 1934年築 船のようなデザインが特徴的なアール・デコ建築

Beach Patrol Headquarters - マイアミビーチのパトロール本部 1934年築 船のようなデザインが特徴的なアール・デコ建築


ストリームライン期の前後の背景を見てみると、1930年代初頭までマイアミビーチにはポストディプレッションブーム(Post Depression Boom)があり、ハリケーン前のマイアミビーチの繁栄を継続するものでした。この時期に建てられた多くの建造物に前期アール・デコのスタイルが用いられました。そして1930年代のアメリカ世界博覧会では大恐慌(Great Depression)の後には楽観的な未来が訪れるであろうという表現が支持され、マイアミもビーチの自然を利用したリゾート開発が進んでいきました。ところが、1939年に始まった第2次世界大戦中は、美しいアール・デコ様式のホテルは約50万人の陸軍部隊を収容することとなり、1940年までに28,000人だった人口は75,000人までに急激に増えていきました。

マイアミのアール・デコ地区の建物の特徴
ー屋根のラインはメソポタミ建築の形状からインスパイアを受けている
ー左右対称のデザイン
ー窓の上にはアイブローと呼ばれる眉毛のような小さな庇がついている
ー窓の庇のコーナー部分はRの形状で側面とつながっている
ーネオンサイン:元の建物の色はナチュラルカラーだったため、夜はネオンをつけて目立たせたのが始まり。
ー縦ラインのデザインを強調するために縦型の装飾がされている
ーポーチやコートヤードが設けられている(南国のトロピカルな気候のため)
ー3階建が多い:エレベーターがいらないため。現在は歴史的に保存、既存のファサードデザインを保つために屋上改修で新たに設けられたプールの屋根などは建物の奥まった位置に設けるなど工夫をしている。
ーライムストーンが多く使われている:フロリダで採れるキーストンと呼ばれる石を使っている
ーフローズンファウンテン(装飾)が壁にデザインされている

アール・デコのエレメント
Bas-Relief Panel
多くのパネルはエジプト・メソポタミアンアートからインスパイアされている。加えて、マイアミビーチの建物は自然にあふれるフロリダの環境に影響を受けている。そのため、多くのホテルのファサードのトロピカルモチーフの彫刻が施されており、マイアミビーチでとても人気のあるデザイン
Chevron Detail
アール・デコ特有のシェブロン柄の角度を強調したジグザグをリピートしたモールディングデザインが用いられている
Concrete Stucco Rails
デコラティブなポーチのスタッコレールはオーガニックな形状と幾何学的な形でデザインされている
Marquees
元は映画や映画館を目立たせるために作られたサインだが、マイアミの建築にも影響を与えた。大きなスタッコでマーキーのような看板を作ったホテルもある。多くのシアターはアルミのマーキーにネオンのイルミネーションをつけている。
Vitrolite
表面が硬く焼き付け仕上げされたオパールグラスは通常は黒、白、または暗い赤である。Vitroliteは水平部の装飾で、アール・デコ建築におけるオーナメントエレメントの一つ。

いかがでしたか。歴史を知ると街の見え方は随分と変わってきますね。
次回は「マイアミアール・デコ地区について(2)」でMIMO(Miami Modern) とカラーパレットについてをお届けします。



ニューヨーク:AD Desgin Show 2019 - スマートキッチン、NYアート

毎年3月にニューヨークで行われるAD Design Show。こちらは雑誌 AD (Architectural Digest)が主催しているプロ向けのトレードショーで、今年で18回目を迎え、およそ400のブランドが出展しました。展示会場はマンハッタンの西側、ハドソン川沿いのピア94。AD magazine は1920年にカリフォルニアで発刊され、現在は9カ国で発行されている建築・インテリアデザインの雑誌です。

会場となったピア94

会場となったピア94

AD Apartment は展示会のアイコニックなデザインブース。今年デザインしたのはニューヨークのインテリアデザイナーSASHA BIKOFF。31歳という若さで抜擢。

会場内は4つのセクションに分かれて展示されています。
FURNISH:室内および屋外用のラグジュアリーファニシング
REFRESH:ハイエンドキッチン、バス及び建材
MADE:アーティストによる限定又は1点もののファインアートとファニシングの展示及び販売
THE SHOPS:直接販売のブティック

ここでは、今回の展示でトレンドやアーティな展示がみられたREFRESHMADEについてを紹介したいと思います。

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REFRESH(ハイエンドキッチンとバスおよび建材)セクションで注目したいのは、REFRESH全体で69ブースあるうちの30ブースがキッチンアプライアンスブランドが出展していたことです。アメリカ国内では高級層向けキッチンブランドのSub Zero and Wolf、海外ブランドではドイツのMieleを含めて国内外のブランドが出展していました。

 

豪華なキッチンアプライアンス展示と共に各社で共通して多く見られたのが「スマートキッチン」対応のアプライアンスでした。Amazon AlexaやGoogle Home、又は各社が開発したスマートフォンのアプリを使って外出先からでも食洗機のサイクルをスケジュールしたり洗濯機を回す、オーブンを予熱するなどが可能になっています。

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各キッチンアプライアンスブランドがスマートキッチンに力を入れているのは、
・スマートキッチン市場は2019年から2023年までに北米、ヨーロッパ、アジアなど世界的な年次平均成長率が23%見込まれる
・アメリカ人の67%が今後10年でスマートホームはスタンダードになると予期している
・アメリカ国内のミレニアル世代の74%が今後5年以内で家を購入検討している
ことが影響してるのではないでしょうか。高級 キッチンブランドのみならず、アメリカ国内最大手アプライアンスブランドも続々とスマートホームキッチンを展開しています。
Amazon Alexa が昨年12月の時点で1億台以上、Google Home が5000万台以上をセールスしており、既に生活の中に取り入れられていることも、スマートホームの今後の広がりを予期する大きな要素です。

 

キッチンアプライアンスのデザイントレンドとしては、ステンレススチールマット仕上げのカラー展開、その中でも特にブラックステンレススチールのガス/IHレンジ、オーブン、レンジフード、冷蔵庫やワインセラーなどが多く見られました。既に一昨年頃から黒のファウセットやバスルームのシャワーヘッド等が各社から出ていますので、その流れでキッチンアプライアンスでもトレンドとなっているのではないでしょうか。

 

MADE(アーティストによる限定又は1点もののファインアートとファニシングの展示及び販売)セクションには140のブースがあり、ニューヨークベースのアーティスト達が多数出展。個性的な作品をその場で購入することも可能です。アーティな照明器具や家具が展示されており、またアーティストに作品の内容を直接聞くこともできるので非常に面白いセクションです。

和からインスパイアされた家具も見られました。中央の照明もニューヨークのデザイナーによるものですが、日本の金箔が使われています。

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NY在住の日本人デザイナーが立ち上げた家具ブランドHACHI
NYで家具デザインを学び、経験を積まれた後にブランドを立ち上げられた実力派デザイナーです。NYの日本料理店にも納めているそうですよ。

 

隣のピア92で同時開催の DIFFA’S DINING BY DESIGN 2019 テーブルコーディネート展。エイズをコンセプトにしたテーブルコーディネートが展示されています。DIFFA(Design Industries Foundation Fighting AIDS )はニューヨークに本部を置くAIDSサポートの団体で、エイズ治療や教育の資金を援助しています。DINING BY DESIGNでは大規模なサイレントオークション、COCKTAILS BY DESIGNパーティー、最終日翌日には終夜ガラも開催され、その収益の一部はDIFFAに寄付されます

いかがでしかたか。
NYで4日間に渡って行われている展示会とあって、アメリカ国内だけでなくヨーロッパブランドの出展もあり、また多数のニューヨーク在住アーティストの作品を見ることができる機会とあって大変賑わっていました。
スマートキッチンを含むスマートホームの展開には今後とも注目して行きたいと思います。

ニューヨーク:BOHOスタイルのNYCホテル

マンハッタンのNomad地区にあるMADE Hotel はNoMad HotelやAce Hotelにほど近い場所に2017年にオープンしました。 18階の建物内には108の客室、レストランやカフェ、2つのバーがあります。

18階ルーフトップにあるバーエリア:BOHOスタイルに南カリフォルニアのカジュアルな要素が加わり、ゆっくりと時間が流れるような空間となっている

18階ルーフトップにあるバーエリア:BOHOスタイルに南カリフォルニアのカジュアルな要素が加わり、ゆっくりと時間が流れるような空間となっている

デザインはL.A.ベースのデザインオフィスStudio Mai 。デザイナーのMilo Garciaはパリ、ロンドンでアーティストとして活躍した後にL.A.にてCrystal Wynnと共にデザインオフィスを設立しています。

1階エントランス横のカフェ

1階エントランス横のカフェ

このMADE Hotel には彼らのデザインスタイル“boho-meets-casual professional style”「ボヘミアンとカジュアルを融合したプロフェショナルスタイル」が取り入れられています。
BOHOスタイルとはボヘミアンスタイルのことで、自然素材や有機的な素材での手作り感あるフォルムの家具やファブリックと、そこへ”more and more”のごちゃ混ぜ感を加えたインテリアを言います。このホテルデザインにもエコやサステイナブルを意識した素材の内装や家具、またラグ、ランプシェードやクッションなどにはごちゃ混ぜ感のインテリアが見られます。植物がアクセントで置かれているのもBOHOの特徴です。
ホテルのエントランスを入るとまずこのカフェが目に留まり、そしてカフェ好きならすぐにコーヒーを飲みたくなってしまうことでしょう。それは都会の喧騒を忘れるようなインテリアデザインが作り出しているのかもしれません。

1階ロビーのバーエリア BOHOスタイル

1階ロビーのバーエリア BOHOスタイル

一方で客室のインテリアはWabi-Sabiスタイルの家具をコーディネートしており、全体としてはミニマルなインテリアでまとまっています。部屋は決して広くはありませんが、どの部分を取っても必要なものがきちんと収まっており、また自然素材のインテリアや照明の演出もあって寛ぎながらも快適に過ごすことができます。このホテルの写真に日本的な雰囲気を感じている方もいるかも知れませんね。

Gracia氏はこのホテルに「Ace Hotelのキャンプのような旅から卒業し、よりカスタマイズされたホテルを求めている好奇心のある旅行者のため」のデザインをコンセプトとしています。同じNomad地区にあるAce Hotelに宿泊したことがありますが、部屋はヴィンテージxインダストリアル×アートでまとめられ、ミレニアル世代の主にIT企業で働く人を中心に人気を博しています。一方で設備は最低限であり、また1階ロビーから続くバーエリアには週末ともなると夜中まで人がごった返しクラブさながらで、落ち着いた雰囲気で夜を過ごしたいゲスト向きではありません。

MADE Hotelも同様にミレニアル世代がカフェやバーエリアでMacbookを使う姿を多く見ますが、お酒をコーヒーに持ち変えて、朝はカウンターや光が差し込む窓際に座ってコーヒーを飲みたくなるような空間をインテリアから作り出しているのは大きな違いと言えるでしょう。

実は今回私もNY滞在にあたり、まさにMADEホテルのような滞在先を探していました。デザイナーはすでに「好奇心ある旅行者」のニーズを掴んでいると言えますね。

シカゴ建築:マクドナルドシカゴ本社 新社屋のデザインコンセプト

先日IIDA本部にてマクドナルドのシカゴ本社の新社屋デザインについてのセミナーが行われました。
こちらは所属するIIDA(国際インテリアデザイン協会)の創設25周年を記念してAIA(アメリカ建築家協会)と合同で行われたセミナーの第1回です。

マクドナルドの本社はシカゴにありますが、昨年本社オフィスがOak Brook(シカゴ郊外)からシカゴ市内へと大移動しました。シカゴ市内に本社を置くのは1971年以来のことです。今回のセミナーでは新社屋のインテリアデザインについてを担当デザイナーが語りました。いわゆるファーストフードの「マクドナルド」が持つイメージとの違いをご覧ください。

Photo : McDonald これまでのハッピーセットのおもちゃの展示スペース。Museumの機能も

Photo : McDonald これまでのハッピーセットのおもちゃの展示スペース。Museumの機能も

マクドナルドの新社屋はシカゴのWest Loopと呼ばれるエリアにあります。ここはもとはインダストリアルなエリアでしたが、現在はGoogleのオフィスやAce Hotel、Wework、おしゃれなレストランやバーが次々に作られている再開発の人気エリアです。

実際の工事は2016年7月に既存建築の解体が始まり、2018年6月に完工しています。建物の延べ面積は773,000sqft(約718,000㎡)、9フロアからなる建物です。総額は$250million(280億円!)のプロジェクト。因みに解体された既存建物はアメリカの人気司会者Oprah WinfreyのHarpo Studioと呼ばれるプロダクションオフィスでした。

Photo:McDonald 新本社ビル

Photo:McDonald 新本社ビル

オフィスのデザインコンセプトは“Work neighborhoods”

Smart Office、Sustainability を大きなテーマとして取り入れ、Wi-Fiはオフィスだけでなくガレージやエレベータ内まで網羅しています。4階から8階のオフィスはオープンフロアデザインとなっているのが大きな特徴です。従業員が働きたいフロアを選べ、どこでも繋がるオフィス=隣の人とすぐに繋がれるオフィス(Work Neighborhoods)を実現しています。また、オフィスには327のミーティングルームがある他、カウチスペース、カフェ、テラスも備わっており好きなスペースで仕事をすることができます。2,000人が働くオフィスではソーシャルスペースも必要とされており、カフェはその役割を担っています。仕事の環境を整えることはより良い人材を確保し会社を成長させるというアメリカらしい考えがデザインにも反映されています。

2階にあるのは新しいフランチャイズオーナーのためのレクチャーをする”Humburger University” 年間3000人のマネージャーが訪れています。

1階には従業員専用のマクドナルド、6階にはマックカフェがあり、カフェスペースはスタジアムシーティング形式のオープンエリアになっています。因みにここでは6カ国のハンバーガーを食べることができるとか!

Photo:McDonald

Photo:McDonald


その他のフロアにはサンドイッチやソースを開発するテストキッチン、700人収容できるカンファレンスルーム、最上階にはシカゴを一望できるフィットネスジムなどが含まれています。

Photo:McDonald Chicago Flagship Store

Photo:McDonald Chicago Flagship Store

シカゴのダウンタウンOhio Stにあるマクドナルドのフラッグシップストアも以前はおなじみのMの大きなロゴが目印でしたが、昨年に建て替えられ、植物に囲まれたSustainableをコンセプトにした店舗に様変わりしています。

いかがでしたか。マクドナルドのイメージは変わったでしょうか。